鞄の話もしてかないと鞄コラムという看板に偽りあり、となってしまいそうなので今回はコラムのタイトル通りに鞄のお話です。

香久山鞄店の鞄は鞄にユニークさを追求しています。

香久山鞄店では、道具としてのかばんに、毎日の生活がちょっぴり豊かに感じる面白さ、ユニークさを追求しています。

今回はそんな当店のラインナップの中でも、わりと奈良っぽいと思っているかばんをご紹介いたしたいと思います。

奈良だけに鹿の角がついてます。

香久山鞄店,奈良,鹿の角,OG_53571

奈良といえば、大仏。あと鹿も有名ですね。

こちらの鞄には、奈良公園の鹿じゃないですけど、本物の鹿の角を使ってます。

ヌメ革の迫力とともに鹿角のエッジ感が雄々しく逞しいデザインです。

鹿の角,トグルボタン,OG_53571

これはトグルボタンと呼ばれてます。ダッフルコートに使われているので、一度くらいは見たことがあるんじゃないでしょうか。

この鹿の角にループ状になった革の紐を引っ掛けて使います。馴れるとマグネットよりも使いやすいんですよ。何よりかっこいいじゃないですか。

魔除けにもなっちゃう、鹿の角。

鹿の角の用途を調べてみますと、古来より魔を遠ざけるものとして、お守りに使われることがあるようです。なんだか面白そうなのでちょっと調べてみました。

鹿の角,お守り,amulet,talisman,OG_53571

たとえば春日大社や鹿島神宮では、鹿は神様の使い(というか乗り物)として神聖視されています。七福神の一人でもある寿老人には鹿のお供がついているようで、長寿のシンボルとなっています。

試しに「鹿の角 お守り」で検索をかけてみたところ、鹿の角を持っていると水難除けにもなるとのこと。マジっすか。

これには諸説ありそうですが、鹿は泳ぐのが上手なのでそれにあやかった説がネット上でも多く転載されていました。いろいろ調べてみたのですが、どこにも鹿の角が水難除けとされる明確な根拠を見つけることは出来ませんでした。

そこで他の伝承や文化とのつながりを含めたボクなりの仮説を立ててみました。

それは、鹿角を水を司る水神である龍の角に見立てて(龍に九似ありといわれ、その角は鹿に似ているとされています)所持することで、河童や猿猴に象徴される予測不能な水難を避ける、そんな呪術信仰的な意味合いがあったのではないか、というものです。龍の角モチーフ説いかがでしょうか。

ツノがついた動物というのは日本には鹿か、あとは牛ぐらいでしょうか。鹿のツノは枝分かれして立派だし、鹿の動きは野生の躍動感に満ち溢れていますから、特別扱いしたくなるのもわかる気がします。

鹿は神聖視される一方で、牛の方は牛鬼とか、物の怪のたぐいばかりで、ひどいものです。おうし座のボクとしては、このツノ格差には憤りを感じます。のんびりしてるけど、牛もいいやつですよ。

奈良に住んで8年、鹿にもだいぶ見慣れましたが、それでも大角がついた野生のレア個体との遭遇は、かなりビビリます。こっちが車だろうがいっさい動じないうえ、道の真ん中で悠然と仁王立ちですよ。月明かりに照らされた牡鹿は神秘的ですらあります。

ということで真田幸村や本多忠勝などの戦国武将がこぞって鹿の角を兜に使ったのも、わかる気がするんですよ。だってあんな物騒なモノ、頭に乗っけてる奴が突っ込んできたら威圧感ハンパないもの。もしボクが足軽だったら逃げ出しますね、速攻で。

獣の匂いを漂わせ、奴がやってくる。

鞄に使用されている鹿の角は1つ1つ、手作業で割って加工しています。

鹿の角,OG_53571,切削加工

ある日の作業風景。

ね!ほらね、ほんとに鹿の角でしょ。

鹿の角のカット&穴あけ&バリ取り作業はすべて手作業です。手作業っていっても空手チョップじゃなくて、据え置きタイプの丸鋸でバリバリです。全開です。

全身が粉まみれになりますが、それよりカットする際や磨きの際の匂いがキョーレツです。

そしてすべてが終わった後は何か体から匂いが、獣の匂いが。

できた、鹿の角ボタン。

鹿の角,OG_53571

尖ったものから、平べったいもの、いろいろなカタチを試してみました。

尖ったのはカッコいいのですが、先端部はどうしても細くなるため鞄のボリュームに負けてしまいます。

輪切りにしたやつなんかは、どうみたって朝食のヨーグルトに入れてるバナナの輪切りにしか見えません。シャツのボタンとかに使うと何だかよさげです。

ということで本製品に採用しているのは平割りタイプ。使いやすく見栄えがいいうえに、両面で2本取れます。

豊かな時間を、革の鞄と共にすごす贅沢さ。

鹿の角バッグ,OG_53571

この鞄の分厚いソフトな革の感触と質感は、使うほど自分の体に寄り添うように馴染んでまいります。そしてバッグのかぶせを止めるたびに、鹿の角の硬質でなめらかな質感と、革のぬくもりが手のひらに伝わります。この体験は、既製品では決して味わえない贅沢さといえます。

鞄の開閉という日常のさりげない動作の中からも、心豊かな時間を感じ取っていただければと思います。

革のバッグを1つ持つならば、ありふれた鞄よりも、こういった味と趣のある鞄を持ちたいものです。

今回登場した鞄は2サイズご用意。