2018/11/26

コラム

こんちには、革と帆布のかばん専門店 香久山鞄店スタッフのよちこです。

みんなが使っている鞄だけど、これってどうやって作っているのだろうか。 ぶっちゃけ鞄を売っているお店の人だって、詳しくは知らないはずです。 ってことで「革ができるまで」そして「鞄ができるまで」を追っかけてみたいと思います。

「さぁ、いっちょうブワーッといくか!」

皮から革に。なめし。


ここは姫路のタンナー工場です。

タンナーというのは革の鞣(なめ)し職人のことで、ここでは動物の皮をなめして製品に使う革を作っています。

生皮のままではすぐに腐ってしまうので最初に、なめしという加工をします。なめしとは、動物から剥いだに植物の渋(しぶ)などを加えて、腐らないようにしてにする昔からの伝統的技法です。もしもこの世になめしがなかったら、革製品を作ることができへんのや。

皮の塩漬け(うまそう)


外国から生皮が塩漬けの状態で届きます。皮といってもたんぱく質のかたまりですので、ちょっと肉っぽい匂いがします。わがやの冷蔵庫でゆっくり熟成されつつあるベイコンを思い出す匂いです。同僚は「ヴォェ」とか、そんな感じの言葉にならない叫びを上げておりました。俺の嗅覚はかわいそうにすっかり摩耗して馬鹿になっているのかもしれないが、むしろ馬鹿でよかった。

なぜ皮を塩漬けにしているのかというと、皮から水分を抜くことで腐敗を防ぐため。原皮の大半は海外から輸入するので、日本に届くまでに時間がかかるからです。

回転する木製の巨大な樽、ドラム


次になめしの準備工程で、ドラムと呼ばれる木製の樽の中でグルングルン回しまくって、塩抜きと加水をします。この過程で余分な皮脂や毛もきれいサッパリ取り除いてしまいます。塩が抜かれることで、皮がうるおい、生皮の状態に戻るのだ。水を抜いたり戻したりと、皮の半生もなかなか大変そうであります。

この樽なにくわぬ顔で回転しながら、ときおりダバダバダバーッと大量の水を床にぶちまけて排水してくるので油断大敵です。

むにゅむにゅしてる、はんぺんみたいなやつ。


ドラムでグルングルンと回されて、水分をたっぷり吸って重たくなった皮。毛も抜け落ちてすっかり別物になりました。これを手作業で1枚ずつ取り込んでまいります。

職人さんが奥の桶から皮をひょいと取り出してブンブン振っていますが、その重量1枚当たりおよそ20kgになります。20kgをわかりやすく例えると小学1年生の平均体重とほぼ同じ。1日にだいたい100~200枚くらいブンブンするらしいのですが、つまり小学1年生100~200人をブン回してるわけです。すごすぎて笑うしかないですよ。

皮は穏やかに革になる。タンニンなめし。


いよいよ皮が革になる瞬間ともいうべきタンニンなめしの工程に突入するわけですが、じつは皮から革に変わる瞬間などはありません。静かに、穏やかにゆっくりと変わっていくのであります。上の画像は暗すぎてよくわからないだろうが、ピットと呼ばれる木製のプールです。

このピット槽を出たり入ったり何週間、何ヶ月もかけてゆっくりと移動しながら、皮が革へと変わっていきます。ピットはタンニン(渋)の溶液で満たさており、工程が進むにつれタンニンの濃度も徐々に濃くなるように設定されています。

だったら最初から濃い濃度でジャンジャンやればええじゃないか、と思うかもしれませんが、どっこい、ここがタンニンなめしの勘所。タンニン成分を徐々に濃くしていかないと、中にまでタンニンが浸透していってくれないのです。いい革を作るには、手間と時間をかける必要があるのです。

謎の小袋の中身は。


ピット槽には袋めいたものが2つ3つ、ぷかぷか浮かんでおります。銭湯の薬草風呂に浮いてる袋みたいだけど、あれって、ついつい手でもみもみしたくなるんだよなぁ。ピット槽からは湯気も出てホンワカあったかそうだし、こりゃーまるきり温泉やで。

?ハァ~ビバノンノ、とおもわず一節、ドリフのビバノン音頭を唄い出したくもなりますが、ここはじっと我慢の子であります。

さてこの袋の中に何が入っているのかというと、ミモザという植物の樹皮がぎっしり詰まっています。このミモザの樹皮には革を鞣すための良質なタンニンが豊富に含まれており、タンニンなめしには欠かせない材料です。

タンニンなめしに使われる材料には、ミモザのほかにチェスナットなどが有名です。これら植物由来のなめし剤を使ったなめしのことを植物タンニンなめしまたはベジタブルタンニンなめしといって区別してます。今どき革関連のwebサイトならば、必ずといっていいほどどっかに書いてあるので、もう見飽きただろうが、堪忍やで。

最近では人工的に作り出した合成タンニンなめし剤で仕上げた革もヌメ革と呼ばれていますので、ややっこしい。いまのところ天然のタンニンで作ったヌメ革を超えるものはないという印象ですが、そのうち見分けがつかないものが出来てくるかもしれません。

自然の川風によって育まれるヌメ革。


自然乾燥によって革の水分が抜けると、艶やかな美しい革の表情が現れます。仕上げを行わない、いわゆる「ヌメ革」と呼ばれる状態です。
この自然乾燥では、工場付近に流れる川の「川風(かわかぜ)」に当てることで、革にとって最適な温度と湿度をあたえています。
ナチュラルさが命となる植物タンニンなめしのヌメ革は、まさに自然からの贈り物ということなんですね。

次回は革の染色、そして鞄作りの工程に移りたいと思います。どうぞお楽しみに!

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