2019年7月22日

財布・長財布

皆様こんにちは。鞄工房山本です。
突然ですが、単語の語源を知ると「おっ」と思います。
先日ラジオをきいていたら、今「国庫」という意味の言葉であるfisc という言葉はもともと purse と同じ意味で使われていた、と言っていました。
そうです、財布 purse です。ラテン語では fiscus は籠の意味で、他の言い方が purse。
ローマ帝王の資産が籠に入っていたことからこの語が使われるようになったとか。

現代では財布 purse は身近なアイテムで、こだわって選んだり使ったりと皆様に大事にされていますが、
方や fiscus の方は 財務、国庫といったお硬い意味を背負ってしまいました。

Purse 財布という言葉が使われている様々な表現

それから数日後、たまたま “shepherd’s purse” という言葉に出くわしました。「羊飼いの財布」。ってなんでしょう。
ナズナ= ぺんぺん草。あの、七草粥にも入ってるやつです。どこが財布なんや、と思ったら、あの三角形の実(?)が財布に似ているからこう呼ばれているらしい。
(Wikipedia様より)

ナズナ

Johann Georg Sturm (Painter: Jacob Sturm) [Public domain]
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Capsella_bursa-pastoris_Sturm23.jpgから</p>

今日は、久々の雑学コーナー。”purse” という単語が入った英語の表現をご紹介します。

・想像と実物がかけ離れた例“beggar’s purse”
「直訳=乞食の財布」、というと何も入っていないってことかと思ったら、料理の名前でした。
パスタの生地や、クレープ生地に具材を詰めて、巾着状にまとめて調理したものです。平たく言うと、洋風の餃子か焼売ですね。
ネットでレシピを見ると、乞食どころかキャビアが入ったものとか色々紹介されています。

・ことわざ
You cannot make a silk purse of a sow’s ear.
雌豚の耳で絹の財布は作れない。
めすぶた、って言い方すごいものがあります。ミミガーでシルクの財布は……無理ですね。
日本のことわざで言うと「瓜のつるにナスビはならぬ」または「瓦は磨いても玉にならぬ」、瓜とナスビだと優劣が無い気がするのも面白い。

・単語で
cutpurse“=スリ。巾着の紐を切ってお金を奪っていたことから。巾着時代の名残。

・造語

変なのを見つけました。“murse” は men と purse が合わさった語。じゃあ、〈財布男〉?
電車男のシリーズみたいですね。そうではなくて、man’s purse、男性の持つ財布でした。
じゃあ女性の持つ財布は woman + purse でwurse…… はいくらなんでも気持ち悪いですね。

動詞でもある ”purse” = 口を尖らせる。
例文)Nobita pursed his lips.

口を尖らせる

purse-proud = 富を誇る、金を鼻にかける
以前このブログで登場した人物でいうと、

富を誇る、金を鼻にかける

でしょうか。

purse puppy
purseはバッグの意味で使うこともあるので、バッグに入る位小さい犬、ということでしょうか。
ティーカッププードルでも流石にお財布にははいりません。

猫のマグネット

これは猫です。ちなみにマグネットです。
・素朴な疑問:purser って、関係あるんでしょうか。船とか、乗り物でパーサーっていいますよね。
・悪魔か、人魚か
devil’s purse=mermaid’s purse
なんのことでしょう。悪魔の財布は人魚の財布と同じ?
サメ・エイなどの生き物が卵生の場合、保護パッケージされた卵を生む、そのパッケージのことらしい。

エイの卵パッケージ

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Mermaidpurse.jpg
このエイの卵パッケージ画像を見ると、悪魔の、といいたくなる気持ちもわかる。
すごいデザインなのは、敵に食べられないようにですかねー。サイズは、大きなエイの場合長さ21~28cm、幅11~18cmというのですから海で遭遇したらコワイです。

・慣用句
empty as a pauper’s purse:(直訳)貧乏人の財布と同じくらい空っぽ
もう少しひねりが欲しい。

lighten someone’s purse
(直訳)誰かの財布を軽くする=ひとからお金を盗む

・ことわざ?
A light purse is a heavy curse(直訳)軽い財布は重い呪い=財布が軽いとこころは重い
なんせ、お金は大事だといいたいのでしょう。
いまやキャッシュレスなので財布の重みと保有資産は関係なくなってしまいました。

・そのまんま
purse snatching, purse snatcher= ひったくり

・ちょっと不思議
line one’s purse = 私腹を肥やす
直訳は、「財布にライニングをつける」です。ふくらませるということでしょうか。ライニングと表地の間にお金を隠す、まで行くと脱税の話みたいですね。

財布が巾着だった頃の名残

・歴史的
gaming purse (ゲーム用財布)
西洋で昔、ギャンブルのときにコインや懸札(?)を入れるときに使っていた底が丸くてギャザーのたくさん入った巾着。
テーブルに置いて、あけたままにするからこんな形なんでしょう。これぞ「財布の紐が緩みっぱなし」な例。

ゲーム用財布

Metropolitan Museum of Art [CC0] 収蔵
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Gaming_purse_MET_66.9.279_front_CP2.jpg

単に財布という意味にとどまらない “purse”。単に財布という意味にとどまらない “purse”。

・人、組織や政府がつかえるお金の合計
・スポーツ競技の賞金金額
といった意味合いもあります。
なので public purse 国庫。でました。語源と合流。

そこで、tighten the purse strings あるいは hold/control the purse strings
とは、文字通り「財布の紐をきつくする/握る」です。
ケンブリッジ辞書さんにこんな例文が載っています。
「彼女は典型的な日本の専業主婦で、家の財布の紐をがっちり握っている」
この国にそのような主婦の方が本当にたくさんいるとは思えないのですが。

loosen the purse strings ゲーム用財布のときに出てきた日本語と全く同じ!「財布の紐を緩める」です。
やはり、巾着型のお財布を想定していますね。

離れた外国で同じ表現があるのは、単に財布の形が似ていただけでなく、その動作と例えの結びつきが強く実感されていたからではないでしょうか。
この流れで、日本の昔の巾着型や他の形の財布についても調べてみたくなりました。

鞄工房山本 二見